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薪火がつくる子どもたちの居場所

(文=若林梨沙 写真=写風人、根岸佑樹)

現在、ファイヤーサイド4年目が経過した私。
秋冬は、ショップに設置されている薪ストーブに火を入れ、朝が始まる。
毎日薪火に囲まれ、火を眺めながら仕事に取り組む。そこで、お客様と会話をする。

幸せでしかない。
やっと辿り着いた理想の職場。

普段は、店頭に立ち接客をする。という仕事が多い中、今夢中になっている活動がある。
それは『子どもたちの居場所作り』。

この活動はというと、不登校状態や引きこもり気味の現代の子どもたちに、火のある暮らしや薪火を通して、 自分らしく時を過ごしもらい、子どもたちが(に)輝く場所を提供する(見つけてもらう)。
または、少しでもきれいな空気や自然に触れ、心身共にリラックスしてもらう。
そんな内容だ。

ではなぜ、その『居場所作り』という活動に行きついたか。
それには自身が経験してきた背景が関係している。

ダメな子なんて一人もいない
現役教師時代に感じた想い

30歳前後の頃、
『なんだか、生きづらい…』
世の中や、教育現場に対し、そう感じた。

現役教師で鬼のような形相で、子どもたちと真正面から向き合う毎日が続いた。
休みもなく、我武者羅に子どもたちの事だけを考えて生きていた。

当時の学校社会では、『学校に行くのが当たり前』『良い成績を取って望む進学を』『部活では休みなしで練習するのが基本』が根付いていた。
決まって評価されるのは、『成績が良い子』『結果を残した子』『一日も休まず登校した子』であった。

あくまでも個人の感覚ではあるが、私はそうは思わなかった。
もちろん周りの教育者たちに共感されるわけもなく。

しかし実際、評価される事はとても良い事である。
だが、上記を満たせず評価されない子どもたちは?
そのような根付いた決まり事で、子どもたちを評価してしまう世の中。
心や目の奥底、を見て欲しい、と疑問が湧く。
だって、どんな子どもでも個性がキラキラで、ダメな子なんて一人もいなかった。

学校に行くのが当たり前じゃなくていい、友達と仲良く遊ぶことが子どもの仕事じゃなくてもいい。
そんな中、学校でも、世の中でも、不登校気味の生徒数は過去最多と聞く。

私立高校での教員時代。教え子たちに囲まれて(前列中央)

海外で知った、子どもの居場所の多様な選択肢

そして、そのような子ども達に必要なのは、何より『居場所』だと感じた。

日々の緊張から解き放たれ、ホッと一息つける瞬間。
大好きなものや人に囲まれ、キラキラ輝ける瞬間。
夢中になるものがあり、世の中の雑踏からスッと離れられる瞬間。

そんな『瞬間』が詰まる居場所は、子どもでも大人でも必要である。
そう感じた教員時代。

どうやって子どもたちの居場所を作ったらいいのだろう。
そもそも居場所ってなに。学校だけが居場所ではないよな。
教員生活真っ只中の私は、さまざまな想いが交差する。

その後、もっと世界中の色々な子どもたちと接したい!知りたい!という想いから、開発途上国へ教員として渡航。
そこには、日本には無いようなさまざまな居場所や文化があった。
学校に通いたくても通えない子どもも、もちろんいた。けれど、必ずそこには居場所があった。
むしろ、彼らの居場所はどこなのか聞いて回ったこともあった。

綺麗なビーチにある遊び場
大人数の家族が同居する家
畑で作業する時間
食糧確保の為に行く魚釣り
近所のおばちゃんが営んでいるお菓子屋さん
ココナッツの殻を燃やして火を囲む焚火場

非常に選択肢が多く、本当に考えさせられた。子どもたち、幸せそうだ。
多くの事を学んだ海外での教員生活。

そして帰国後、同じ系列の国際協力機構へ入社。
日本の子どもたちに、現地での生活や教育の実態を伝えた。
『何が幸せなのか』、『学校や居場所とは何か』、『自分たちに今できることは何なのか』、と、様々なことを一緒に考えた。

ここでも、子どもたちから学ぶものが多かった。
学校とは、居場所とは、何なのか…。

国際協力活動経験者として、日本の子どもたちに世界の現状を伝えた。

火育活動。そして「はみんぐ」との出会い

その後、任期を終え、ファイヤーサイドへ転職。
そこには『薪火、人、自然に寄り添う』というミッションやビジョンが存在した。
薪火の価値を通じて、社会を笑顔で灯す。そんな会社だ。

そして、入社したての頃、社内で『火育』という取り組みが始まった。
火を通し、子どもたちの好奇心や興味を育み、自らエネルギーを手にし、生きる力を手に入れる。
私には、なんとも興味深かった。
利便化が進む世の中で、『火・水・電気』は容易に手に入る。
また、日常の中で、子どもが火に触れる機会は昔に比べたら減少し、マッチの使い方も知らない子どもも多い気がする。
そんな現代社会であるが、敢えてマッチやライターや着火剤を使わずに、火を起こしてみよう、というこの取り組み。
子どもたちが火に親しみ、時には火の恐さを知る、貴重な経験にもなるだろう。と、感じていた。

しかしその後、火育のアイテムや活動案はでるが、なかなか自身で行動に移せず、不甲斐ない日々が続いた。
そこから一年後、不登校や引きこもり状態にある児童生徒の居場所作りをするNPO法人はみんぐ様からたまたまお話を頂いた。

元から、そういった教育面での社会貢献に興味があった私は、是非協力させてください、と上司にくっついて、始めさせてもらった。
さらにその頃、注力していた火育活動。
この火育と、はみんぐ様との活動が結びついた時、私の中の点と点が繋がった。これだ、と。

ファイヤーサイドの活動が子どもの居場所になればいいな、と。
そんな『居場所作り』に、なにか一つでも関われるなら、幸いだと思い始めたこの活動。
活動内容はというと、基本的には『自由』である。
詳しくは以下だ。

『幸せ』とは、『選択肢が多い事』とよく耳にするように、ここでは、色々な選択肢があって何をしても大丈夫。
薪を割るも良し、枝を拾って思う存分焚火をするも良し、薪火料理をするも良し。無理矢理に他者とコミュニケーションをとる必要もないし、頑張ってスタッフと関わる必要もない。
しかしそんな中では、様々な価値観や人格にふれ、自己肯定感を高めながら視野を拡げて自立・成長できる環境も存在する。
とにかく、火を焚いて、癒され、楽しむ。それだけでいい。

3年間、薪火と共に子どもたちを見守ってきたこの活動。明らかに成長を感じる。
最初はなかなか車から降りられない子どもや、現地まで来たけど気分が乗らない子ども。
恥ずかしくて、会話どころか目も合わせられない子ども。
抱きしめると、心臓がドキドキしていて口から飛び出そうな子ども。
でも、必ず毎回来てくれる。みんな様々だ。でもいいのです、ゆっくりゆっくり。

3年経った今、会うたびに背丈が伸び、目を合わせて挨拶もしてくれるようになった。
嬉しくて楽しくて抱きしめてくる子どももいる。
焚き火が楽しくなり、家の庭でやったりキャンプを始めたりしているご家庭もある。
火を眺める目や、自身で火を薪に着火させた瞬間の表情は、何事にも代えがたいほど輝いている。
薪火がもたらす効果は絶大である。

火のある場所が子どもの居場所になることを願って

ファイヤーサイドが提供するこの『薪火』とは、『安らぎにつつまれた心地の良い空間』である。
実際の実験でも、炎の揺らめきは、「1/fゆらぎ」というものにあり、私たちに本能的な快感や快適さを与えてくれるのだと証明されている。
代表的な例としては、小川のせせらぎや木の年輪、木目の間隔など自然のものが、1/fゆらぎを持っているのだそう。

ファイヤーサイドでは、この炎の揺らめきが、人と人、人と自然の繋がりが尊重されると考えられている。
会社を通して、これからもこの『薪火』と共に、さまざまな子どもたちに出会いたい。

自身の経験を通して、子どもたちに対する想いは強い。
現在、月に一回行っているこの活動。今後は、参加者や開催日数を増やし、更に拡大していく予定だ。

まだまだ未熟者ではあるが、サポート支援をしている方々と共に、どのような活動が最適なのか、会社のビジョンやミッションを通して、真剣に考えていきたい。

はみんぐコーディネーターの林さんと

学校に通う事だけが大正解ではない。その他にも学びの場はたくさんある。
そして、どんな子どもでも輝いている。
輝ける場所、安心する場所、楽しめる場所を、提供したい。
そんな居場所があったっていい。『薪火』と共に…。

火のある場所が、ファイヤーサイドが、子どもの『居場所』になることを願って。
それが、社会のため、子どもたちのために、なりますように。
それが、私の使命だ。

これからの未来、『薪火』を通じて、社会を笑顔でともしていけるように。
ファイヤーサイドのビジョンとミッションを背負いながら。

自身の気持ちや取り組みを世の中に発信する機会をいただきありがとうございます。 最後まで一読いただいた皆様に心より御礼申し上げます。